2021/01/23

ラジオの「一回だけあります」のコーナーを聞く。

「これが最後のキスだと思いながら悲しいキスをしてお別れしたことありますか」というリスナーの問いかけに「一回だけあります」とパーソナリティが答えて笑いを取っていた。

彼に「したことある?」と何気なく聞いたら「あるよ。火葬場で」と言うので、いたたまれなくなった。

彼は嘘をつかない。正直なひとだ。

前妻が自殺しているのを発見してからはまともに食事が喉を通らなかったが焼く前の晩は最後の一緒に食事ができる機会だと思ってご飯をたくさん食べたとか、火葬場でお別れ前にキスをしたとか、愛が深い話ばかりだ。とても好きだったのだろう。

 

最愛の妻が死んでしまったと言う話と、私がとても愛していた男と一緒に働いていると言う話と、どちらがしんどい話なのだろうとたびたび考える。

 

彼は前の妻を忘れたいというが無理だろう。

一緒に選んだであろう家具家電やミュージカルのパンフレットやCDがたくさんこの家にはある。かつての愛が溢れている。

捨てた方が良いかと以前問われたが、特にミュージカルなんてパンフレットを捨てたところで音楽とセットになっている思い出は捨てられない。

たぶん忘れるなんて無理だろうなと思う。

 

前の男のほうはどうだろう。

たまに出社すると会う。ステイホームのせいでぷくぷくとしていて可愛い。

無論寄りを戻そうという気持ちはないが、私はかつてもうどうしようもなく男を愛していた。彼も同様だった。

いろんなタイミングが合わず、一緒にいない事を選択したが、未練がましく終わった後もたびたび交流していた。「これが最後なのかな」「いっそ駆け落ちしたいな」と思いながら。

前の男に買ってもらったグラスは割れたし、指輪は落としたが、貰ったバスタオルや彼のために購入したお箸や、箸置きは捨てられなかった。ぶりの照り焼きを作ってもらった思い出や、たこ焼きを上手に作っていた手つきも忘れないだろう。

ベッドが動いたとき壁に空いた大きな穴も塞がずにいる。

 

私は前の男が全て健やかで、関係も良好なので、私の方が爆弾を抱えているのかもしれない。前の妻について考えると、わたしも気がおかしくなりそうだが。

 

発言後、彼は「あーあ、思い出しちゃった」と冗談めかしたあと普通にしていた。

私はじゃぶじゃぶと1人で杯を重ねて、1人でベロベロに酔い、訳が分からなくなるほどがつがつとお願いして抱いてもらった。

とんでも無くクタクタになるほど夢中で抱かれたし、ピル以外の避妊をしなかった。

 

どの愛も深く、私の業は深い。